伊藤まさひろ世事感懐

佐々木投手登板回避の波紋

全国高校野球選手権千葉県大会の決勝戦で習志野高校が八千代松陰高校に快勝し、8年ぶり9度目の甲子園出場切符を手にしました。今春のセンバツ大会では準優勝、そして今回の千葉県大会では頂点まで破竹の進撃と、チーム力の充実に目を見張ります。習志野高校へは、私が会長を務めさせていただいている佐倉リトル野球リーグのチームで活躍した選手が数多く進学していて、大変身近に感じています。甲子園では3度目の優勝を目指して活躍していただきたいと思います。

ところで、岩手県大会の決勝戦に臨んだ大船渡高校がエース佐々木朗希投手を登板させないまま敗退しました。佐々木投手は163㌔の速球でメジャーリーグのスカウトも注目する投手です。同校の監督は登板させなかった理由を「故障を防ぐため」と話していますが、この決断に対して、高校野球ファンや評論家らから賛否両論の意見が飛び交っています。

岩手県大会で佐々木投手は7月21日の4回戦で194球、24日には129球を投げていました。翌日の決勝戦ではマウンドはおろか、4番の指定席で打席に立つこともなく終戦を迎えました。これに対して、大船渡高校には「なぜ、登板させなかったのだ」という抗議の電話が殺到したそうです。「甲子園で、佐々木投手の快投が見たかった」というのが大方の高校野球ファンの気持ちでしょう。もちろん、かく言う私も佐々木投手と各校の強打者との対決シーンが見たかった一人です。

同校の監督は試合後、「(決勝戦という)重圧がかかる場面で、3年間のなかで一番壊れる可能性が高いと思った」と佐々木投手の登板回避の理由を述べていました。決勝戦で投げて、その結果、故障するか否かは神様しか分からないのですが、将来、球界の宝ともなる快速球投手をスポイルする危険を避けたのでしょう。実際、U18合宿の紅白戦で163㌔の速球を投げた後の医師の身体検査で、まだ18歳の佐々木投手は「球速に耐えられる骨、筋肉、靭帯、関節ではない」と診断されたそうです。

野球選手、特に投手にとって肩は消耗品です。実際、野球一筋に打ち込んでいたが、肩や肘を壊して断念したという元選手の話をよく聞きます。大谷翔平選手や田中将大選手が活躍するアメリカの大リーグでは投球数が100球に達すれば、好投していてもマウンドから降りるシステムになっています。同国の高校野球でも、多くの州が公式戦で連投させない投球数制限を導入しています。

「選手の将来を考えるべき」という声の高まりに応じて、昨春のセンバツ大会からタイブレーク制度を導入、今夏の甲子園大会では準々決勝の翌日に加えて、準決勝の翌日も休養日とすることになっていました。球数制限についても、高野連の有識者会議が「一定の制限は必要」という指針をまとめ、全国大会を対象に、9月に具体的な日数や球数を決定する段取りでした。

絶対的エースを決勝戦で登板させなかった大船渡高校の監督の決断は、その是非はともかく、このような一連の動きに一石を投じたことは確かです。かつてはエースが栄冠を目指して連投するのが当たり前の高校野球でしたが、これからは、厳しいトーナメントを乗り切ることができる複数の投手を擁するとともに、コンディショニングの知識がある専門的なトレーナーを試合に帯同することもチームに求められる時代になるかもしれません。