伊藤まさひろ世事感懐

エネルギー政策の行方に注目

佐倉城址公園の新緑が美しい季節になりましたが、東北関東大震災の被災地を思うと、手放しで愛でることができません。不便な避難所暮らしを続ける大勢の被災者は、この季節の変わり目をどう感じているのでしょうか。一日も早く、すべての被災者に日本各地からの支援の手が届くよう祈ります。

大震災で被害を受けた福島第一原子力発電所のことも気がかりです。震災後、日本国民が心から笑うことができないでいるのは、放射能を出しっぱなしの壊れた原子炉に対して有効な対策がなかなか進まないせいもあります。多くの犠牲者を出したチェルノブイリ原発事故と同じ最悪のレベル7まで引き上げられた原発事故。関係者の英知を尽くして何とか早期に封じ込めてほしいものです。

今回の重大な原発事故で、日本の電力政策は根本から見直されることになるでしょう。これまで国や電力会社は「原発は安全」と住民に説明し、日本各地に立地してきました。福島第一原発もしかりです。それが「想定外」の大規模地震と津波で、住民の暮らしばかりか、生命を奪いかねない凶器に変貌したのです。

そもそも今回の事故を「想定外」の自然災害のせいとするのに対して多くの反論の声が上がっています。原子力安全委員長を務めた松浦氏は「科学技術を結集すれば、地震や津波にも立ち向かえると考えて利用を進めてきたが、考えの一部を叩き潰された。問題の解決法を突き詰めて考えられていなかったことを申し訳なく思う」と謝罪しています。

今回の福島第一原発の事故で、原発の新規立地計画が凍結されるばかりか、既存の原発の廃止を求める声も高まるでしょう。すでに東北電力の一部株主は同社の原発を廃止する規約案を株主総会に提出する方針だそうです。

ただ、脱原発を目指すには、電力の供給問題を十分考えなければなりません。電力会社などの「原発を止めれば、電気が足りなくなる」との訴えがある一方で、既存の火力発電所と水力発電所による発電で十分間に合うと言う人もいます。今回の事故で身をもって知らされた原発の危険性、火力発電所で使用する化石資源の有限性、地球温暖化問題、太陽光や風力に代表される再生可能エネルギーを利用した発電システムの効率性などを十分に吟味し、わが国のこれからの電力政策を決定することになるでしょう。その議論の行方を注視していきたいと思います。