伊藤まさひろ世事感懐

オーバーツーリズム

観光は我が国経済の重要な位置を占める産業で、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の推測によると、7年後には訪日外国人旅行者が国内で直接消費する額は5兆円を超え、GDPに寄与する額は48・5兆円に達し、関連の総雇用者は500万人を越えるそうです。

政府も訪日外国人旅行客の誘致に熱心で、昨年は外国人旅行客が3000万人を突破し、2020年には4000万人の目標を掲げています。観光立国を目指す我が国にとって順調な数字のようなのですが、訪日外国人旅行客の増加に伴って最近、「オーバーツーリズム」という言葉が聞かれるようになりました。

「オーバーツーリズム」とは観光客がどっと押し寄せることによる地域環境破壊などの「観光公害」のことです。イタリアなどの世界的に有名な観光地は以前から「オーバーツーリズム」に悩まされていて、ベネチアでは大型観光船が入港すると降り立った大勢の乗客のせいでトイレが足りなくなり、下水がパンクするなどの問題が起きるそうです。住民が入港しようとする豪華客船の周りをボートで取り囲んで、入港反対のデモをする騒ぎも起きました。

フィリピンのボラカイ島では、観光客激増によるゴミや排水の汚染で海の水質が悪化したとして、政府は一時、観光客の立ち入り禁止措置を取りました。

「オーバーツーリズム」の現象は国内でも見かけるようになっています。観光シーズンの京都では市民の足の路線バスが満員になり、2~3台待たないと乗れないそうです。住宅地では民泊の外国人旅行者による騒音が問題になり、街頭ではカメラマンによる外国人旅行客の記念撮影で歩行に支障が生じています。

鎌倉も同様で、アニメの舞台になった江ノ島電鉄の踏切では、軌道内に立ち入って記念写真を撮る外国人旅行者が多いということです。江ノ電では観光客が押し寄せて地元住民が乗車できないため、事前に住民やいつも乗車する利用者に配られた証明書を見せれば、列に並ばなくても乗車できる社会実験をしたそうです。

観光立国を目指す我が国は、この「オーバーツーリズム」への対応を真剣に考えなくてはいけません。現在、実体調査を行っているという観光庁は、今年度内に発表する調査結果をもとに具体的な方策を考えるとしています。果たしてどのような方策が打ち出されるのでしょうか。

これまでのところ、京都や鎌倉のような目立った「オーバーツーリズム」現象が見られない我が県ものんびりとしてはいられません。2020年の東京オリンピックを控えて、今から対策を考えていた方がいいのではないでしょうか。