伊藤まさひろ世事感懐

アートと落書き

都内の「ゆりかもめ」日の出駅近くの防潮扉に描かれた傘をさすネズミの絵がバンクシーの作品ではないかと話題になっています。バンクシーの作品集に掲載されている写真と反転はされていますがそっくりで、かなりの確率で本物ではないかと言われています。

バンクシーはロンドンを中心に活動する覆面芸術家で、スプレーなどを使って壁などに社会を風刺する絵「グラフティ」をゲリラ的に描いています。メトロポリタン美術館や大英博物館に自分の作品を無許可で展示したり、オークションに出品された自作の絵「少女と風船」を1億5500万円で落札された直後、額縁に仕込まれたシュレッダーで裁断したりするところから、芸術テロリストとも呼ばれています。

そのバンクシーが描いたのではないかと物議をかもしている防潮扉の絵を小池百合子都知事が視察に訪れ、「東京都への贈り物かも?」とツイッターでつぶやきました。その後、絵が描かれた防潮扉のパネルは「大騒ぎになるのを避けるため」と外されて保管されています。

高額で取引されているバンクシーの「グラフティ」が日本の街角にもあったという、なんとも愉快な話なのですが、社会へのメッセージが込められていると言っても、無断で民家の壁や公共物に描かれた「グラフティ」は落書きであり、「落書きは違法のはず。バンクシーが描けば芸術作品で、巷の若者が描けば犯罪ではおかしいのでは」という声もあります。実際にイギリスでは、「ストリートアーティストが公共物に絵を描いたら、それはヴァンダリズム(落書き)。でもバンクシーがやったらアート活動とみなされる。まさに雲泥の差」と皮肉めいた発言をする人も。壁に描かれたバンクシーの落書きに落書きした人が逮捕されるという珍妙な出来事もありました。国内のツイッターにも「落書きはだめだが、バンクシーの絵ならOK」というダブルスタンダードに首をかしげる意見がたくさん寄せられています。

このバンクシー騒動で、自称グラフティアーチストの活動が勢いづくのではないかと心配されます。スプレーで描かれた街角の落書きは景観を著しく損ない、治安の悪化を招く行為です。改めて「街角への落書きはだめ」という気運を高めましょう。