伊藤まさひろ世事感懐

欠かせない海底資源の確保

海洋研究開発機構などの研究チームが沖縄本島沖の海底を掘削し、金や銀の採取に成功したと報道されました。海底に熱水の噴出口を掘り、人工的に熱水鉱床を作る試みが成功したということです。鉱物資源に乏しいとされてきたわが国にとって、将来に期待を抱かせるニュースです。

日本列島の周辺の海底は鉱物資源の宝庫なのです。中でも注目されているのが、海底下のマグマで熱せられた海水に岩石中の金属などが溶け込み、それが噴出して冷やされ、海底で固まった海底熱水鉱床。金や銀、亜鉛、銅、鉛などのほか、先端工業に欠かせないレアメタルやレアアースが含まれているとして採掘の実験が行われてきました。

モリブデン、リチウム、コバルトなどのレアメタルは半導体レーザーや発光ダイオード、電池、永久磁石、超伝導材料などに使用される非鉄金属です。レアアースはネオジムやジスプロシウム、イットリウムなどを指し、現代の産業を支える重要な元素で、世界の需要の約半分を日本が占めています。

世界全体の産出量の97%以上を占める中国が、2010年9月の尖閣諸島での衝突事件で海上保安庁が漁民を拿捕したことで日本への禁輸措置を行い、政府や産業界が中国に変わるレアアース産出国を確保するのに躍起となったこともありました。産出量が少ないために価格操作で値段が沸騰したりするため、国内での安定採掘が望まれています。

沖縄県では久米島周辺で銅や亜鉛、レアメタルを含む海底熱水鉱床が発見されています。さらに、日本最東端の南鳥島沖の海底で、レアアースを大量に含む泥の存在を確認しています。これらの周辺海域には、日本国内の消費量の230年分に相当するレアアースがあると推測されています。ただ、海面下千メートルもの海底から採掘しようというのですから大変です。採掘できたとしても、採算に見合わなければなりません。効率的な採掘方法の開発を目指して、採掘方法の開発が行われてきました。

今回、海洋研究開発機構などの研究チームが試みた方法は地球深部探査船「ちきゅう」で海底に直径50センチの穴を掘り、海底下の熱水を噴出させる方法です。穴からは約310度の熱水が噴き出し、高さ7メートルの鉱床ができました。この方法だと低コストで採取が可能ということです。海底にはレアメタルなどのほか、天然ガスに変わる資源として有望視されているメタンハイグレードも眠っています。日本の優れた技術力でこれらの海底資源を効率的に採掘できる日も遠くはないでしょう。