伊藤まさひろ世事感懐

ノーベル賞

2016年のノーベル賞授賞式がノーベルの命日にあたる12月10日に行われ、生理学・医学賞に決まった東京工業大学栄誉教授の大隅良典さんらにメダルと賞状、800万クローナの賞金が贈られます。

数々の話題を呼んだ今年のノーベル賞選考でした。大隅良典さんの受賞は日本人として3年連続の快挙です。このほか、村上春樹さんが最有力候補だった文学賞に歌手・作詞家のボブディランさんが決まりました。授賞理由は「偉大なるアメリカ音楽の伝統の中で、新たな詩的表現を生み出した功績」だそうです。この決定に文学界は賛否両論ですが、当の本人のボブディランさんは、受賞決定の知らせを完全無視。「無礼で傲慢」とノーベル賞選考委員を怒らせています。

果たしてボブディランさんは受賞を辞退するのでしょうか。過去には6人がノーベル賞受賞を辞退していて、1964年にはフランスの哲学者サルトルが受賞を辞退しています。

 ともあれ、ノーベル賞は世界最高の栄誉です。1945年の湯川秀樹博士の物理学賞受賞は後復興の険しい道を歩んでいる日本人を大いに勇気づけました。文学賞受賞の川端康成さんがストックホルムのスウェーデン・アカデミーで行った受賞記念講演はいまだに語り草になっています。「美しい日本の私―その序説」と題した講演は不朽の名文として、多くの人々の心を打ってきました。2008年には物理学賞の南部陽一郎さんら4人が受賞するという快挙を達成しました。

3年連続の朗報ですが、喜んでばかりはいられなそうです。大隅良典さんは受賞決定後の自民党本部での講演で、国立大の運営費交付金が減り、政府の助成対象として産業や医療への応用研究が重視されている現状について「とても危惧している」と指摘し、「技術のためではなく、知的好奇心で研究を進められる大事な芽を大学に残してほしい」と、基礎研究の充実を訴えました。

結果が分かりやすい応用科学に力が入れられ、地道な基礎研究が軽視されがちな風潮の影響は、既に各所に表れていると言います。

ニュートリノの観測で2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊・東大特別栄誉教授が設立し、理事長を務める「平成基礎科学財団」が来年3月末で解散することが明らかになりました。同財団によると、「財政上の問題と人事上の問題」からだといいます。

このままでは将来、基礎研究分野のノーベル賞受賞者は輩出されなくなると警鐘が鳴らされています。ずっと先を見通した継続的な科学振興策が必要です。